醜形恐怖症について
「醜形恐怖症」とは?
自分の体の一部が、あるいはいろんな場所が醜く、魅力がないように思えて辛い。そういう思いがずっと離れず苦しんでいるといった場合、醜形恐怖症かもしれません。
醜形恐怖症(しゅうけいきょうふしょう)
:英body dysmorphic disorder BDDとは
自分の体について、人から見ても分からないような外見上の欠点にとらわれてしまい、それによって日常・社会生活に支障が出る障害です。「身体醜形障害」とも呼ばれます。
1886年に、イタリアの精神科医であるエンリコ・モルセリ医師によって提唱されました。
“醜形(しゅうけい)”というのはその名の通り、“みにくい”ということです。
つまり、他人から見ても大きく問題になるような部分は見当たらないのに、当の本人は自分の顔や体について「醜い」「ひどく歪んでいる」「化け物のようだ」と思い込んでいる・不安や失望・苦痛を感じているというのがこの症状の特徴になります。
人の目に触れる・触れないに関わらず、体のどの部位(目、鼻、歯、唇、皮膚、頬骨、胸、体毛、肌の色)でも対象となります。
有病率・性差
全人口の1~2%が醜形恐怖症とされており、男性よりも女性のほうでわずかに有病率が高い傾向にあります。
しかし本人や周囲が気づいておらず醜形恐怖症だと明らかになっていない人も多数いることを考えると、実際の有病率はもう少し高くなるでしょう。
発症年齢
発症年齢で多い群は15~19歳とされ、特に16~17歳が最も発症の多い年齢という報告があります。
もともと活発な性格だった人が発症し急に症状が強く出現する場合と、少しずつ外見上の一部分が気になりだし、徐々に障害として表れてくる場合があります。
その場合は12~13歳頃に少しずつ症状が現れ始め、数年経過したのちに病態が明らかになることが多いようです。
最初は容姿に対する違和感から始まり、徐々に「おかしいのではないか」「奇異な姿をしている」という思考から無力感や失望・不安などが起こり、徐々に容姿への不快感が大きくなっていきそのうち「耐えがたいほど醜い」という歪んだ自己評価に変わっていきます。
また、思春期というのはセルフイメージのゆらぎや今まで馴染みのあった体がみるみる内に大人に近づいていく時期でもあり、変わっていく体に心がついていけない時期でもあります。
この変化への戸惑いが、醜形恐怖症の発症に影響しているとも考えられているようです。
経過
できるかぎり早期に治療を始めることが重要とされていますが、どのくらい治療期間が必要なのかは人によって異なり、慢性の経過をたどる例も少なくありません。
この障害による苦痛や不安の程度が強く続くと、統合失調症やうつ病などを併発することもあり、症状が重くなると自傷行為が見られたり自死に至ることも多いため注意が必要です。
醜形恐怖症の症状と特徴
他人から見ても特に気にならないような外見上の特徴をひどく気にする
たとえば、
- 目の二重の幅の微妙な左右差
- 顏の頬骨の形が異様に変だと思い込む
- 自分の体はとにかく貧弱だと強く信じ込んでいる
- 顏が醜く、「怪物のようだ」と思い込む
- 髪の毛の生え際がひどくおかしいと気になってしまう
- 胸の大きさ・形が若干違うことで「ひどく醜い」「魅力がない」と悩む
と、多くの人がみれば特段何も問題がないような外見上の特徴に対して、「醜悪なもの」と強く思い悩むのが特徴です。
つまり、客観的な外見の認知と本人の認知に明らかなズレが生じている状態といえます。
それでは欠点や身体的特徴が第三者から見て明らかであれば、醜形恐怖症ではないと判断されるかというと、そうではありません。
私たちは、普段外見に対して何らかのコンプレックスを抱いているものです。
特に醜形障害の好発年齢に当てはまるような思春期では、自分の細かい容姿について悩むことも多くなるでしょう。
20代を超えても、「若いのに白髪がみられること」で悩むかもしれませんし、「足の長さが平均よりも短い」ことが気になるかもしれません。その特徴が第三者の目から見てはっきりしていることもあるでしょう。
しかし外見上の欠点があっても、
- 「自分の容姿は、表現しようもないほど酷い」
- 「体のあちこちが異様で、点数もつけられない」
- 「鏡に映った自分の顔を見て、ショックを受ける」
というレベルにまで発展することはまずありません。
美醜の価値観というのは人それぞれですから、外見上の欠点に対して、どこまでが正しい認知でどこからが異常なズレなのかというのは判断が難しいところです。他者からの評価と比較して圧倒的に自分の容姿に対する評価が低いことは診断基準の一つとなります。
また欠点が修正される・あるいは無くなったとしても「自分は醜い」という思考のとらわれから抜け出せないのが醜形恐怖症の特徴でもあります。
外見上の欠点にとらわれるあまり、物事を繰り返し行ったり考えたりする
「自分の一部・あるいはいろんな場所が醜い」といった思いが強いために、以下の行動や思考のパターンが見られます。
自分の容姿を何度も確認する(対鏡症状)
鏡を見ている時間が1日に何時間にも及ぶ、鏡で自分の姿を確認したのにすぐまた確認することが何度もある、といったような場面がみられます。
これを対鏡(たいきょう)症状というもので、精神症状の一種です。
あるいは鏡でなくとも自分の姿が投影できるもの、ショーウィンドウや窓ガラス、ペットボトルなどを見続けることもあります。何度も自分の姿や欠点だと感じている部分を映しては確認するという作業を繰り返します。
自分の受け入れがたい特徴に関して「ちゃんと隠すことができている」と思った場合は安堵し、逆に「思っている姿とは違う」と感じて落胆したり不安になったりします。
また逆に、自分の姿を一切見ないようにするといった行動パターンをとる場合もあります。これも鏡に限らず自分を投影するものすべてを避けようとするため、反射物があるような場所にはまず近づきません。
鏡をひたすら眺める行動パターンと一切見ないようにする行動パターンが交互に現れる人もいます。ある時期は「不安だから鏡を何度も確認する」のに、ある時期は「ショックを受けるから確認は避ける」というのは一見、矛盾しているようにも感じられます。
しかし「鏡を見て確認しなければ」と、不安を打ち消したい気持ちと「鏡を見て失望したくない」という恐れの気持ちの両方を抱えていることは珍しくなく、時期によってどちらか一方の思考が強くなることもある、といったほうが正しいでしょう。
醜い部分を隠そうとする
いわゆる「過度な身づくろい」で外見上の欠点と考えている部分を隠そうとします。
顏の一部分が気になる場合は何度も化粧を重ねて隠すことがあります。その部分が隠れて見えなくなっても、いつまでも化粧を重ね続けてしまう場合も。
服装を何度も変えることもあり、胸を隠せるよう髪の位置をいつまでも修正し続けることもあるでしょう。
他には、
- 胸の左右差が分かりにくくなるように厚着をする
- 目の小ささが気になり、外出時は常にサングラスをする
- 髪の生え際が見えないような帽子をかぶる
といったカモフラージュを行います。
隠す方法は人によって変わってきます。隠してもごまかしても気になるため、「整形」といった形でそもそもの外見を修正しようとする人も多いのが特徴です。
そのままにしておくと不安が強いために、その不安を何かしらの行動で打ち消す必要があります。
繰り返しファンデーションを塗り重ねること・もしくは髪の位置を何度も修正することかもしれないし、整形を繰り返すことかもしれません。
不安・苦痛は繰り返し沸き起こるので、その不安を払拭するための行動も相当な時間をかけて・頻回に・入念に行う必要があるのが特徴といえます。
しかしその行為によりうまく不安が拭えないと、外出自体を取りやめたり、泣き叫んでしまう・取り乱してしまう例もあります。
筋肉に対する醜形恐怖もある
また、「自分の体は貧弱で醜い」と感じている人は、自分の体を鍛えあげることに執着しがちです。
これは筋肉醜形恐怖(きんにくしゅうけいきょうふ)といって、周りからみれば細い体型でもないのに筋肉量が足りないと感じ筋トレを過剰なほど行う・筋肉量を増やすためにステロイドを繰り返し投与する、といった症状がみられることがあります。
この場合も、運動量がどれだけ多くても筋肉量が増えても満足できません。「貧弱である」という観念は消えないため、それを打ち消すために過剰なトレーニングをずっと続けてしまうこともあります。
自分は他人からあざ笑われている・蔑まれていると考える
自分はこの醜さがあるために注目を集め、人から嘲笑されている、蔑まれているという強い思い込みがあり、そのことを毎日何時間も考えていることもあります。
自発的な考えというよりは「そういう思い込みが頭の中に入ってきて考えさせられる」ものであり、自分で考えないようにコントロールすることは困難です。
他の人と自分の容姿を比較して、落ち込んだりすることもあります。
外見上の欠点にとらわれることで、強い苦痛を感じ生活に支障をきたしている
「自分は醜い」という強い思い込みが、日常生活や社会生活であらゆる問題を引き起こします。
人と接することを避けてしまう
- 人の前に出るのがおっくうになってしまう
- 外に出る時間帯が限られる(早朝や夜間など、一目につかないような時間帯に外出する)
- 外出を全くしなくなる
対人関係が必要な場面すべてを避けようとする傾向が強くなるため、仕事や学校に限らず、社会的な活動が難しくなり、孤立してしまうことが少なくありません。
症状が強くなってしまうと、外出する時間がどんどん短くなり、まったく外に出なくなることもあります。いわゆる引きこもりの原因になりやすいのも醜形恐怖症の特徴の一つです。
ただ、人前にでなければ自分の容姿に悩むことはない人もいれば、一人の時間も常に鏡を見続けたり悩み続けたりする人もいるため、その場合は人の目を避けていてもストレスがかかり続けることになります。
金銭的トラブルを引き起こす
欠点の修正にこだわるあまり、給料をほとんど美容につぎ込んでしまったり、整形依存に陥ってしまうなどといった状態になる場合があります。
一部のパーツの形が何度整形しても気になるなど、手術に対する満足感が得られにくく、いったん満足したとしても次第に不安になり「修正したい」という気持ちに際限がなくなることが原因です。
強烈な思い込みと苦痛・不安が繰り返し起こり、その都度不安を取り除くことを優先する必要があるため、結果的に多大なコストがかかってしまう特徴があります。
結果的に生活費の工面が出来なくなったり、整形費用に充てるために借金をする、といったような状況もみられます。
親にお金を出してもらうよう頼んだのに断られたり拒否された場合、暴れて実家の物を壊す、家庭内暴力にまで発展する・自殺をほのめかすようになることも珍しくありません。
社会的トラブルを生み出す
- 友人と会う約束をしていたのに、身支度に時間がかかって遅刻する
- あるいは目的地に向かっている途中で、自分の容姿に対する不安が強くなってしまい行けなくなりドタキャンする
- 学校に入るだけで注目の的になる気がしてしまい不登校になる
- 会社で人の目に触れるのが嫌になり、欠勤を繰り返す
など、社会生活を送るうえで必要なことが出来なくなり、生きていく上で必要な社交場面も極端に避けるようになります。そのため交友関係を築きにくくなったり社会的地位を失ったりすることもあります。
ただ、社会的地位が保たれていたり、学校に登校できている場合・特段トラブルが起きていない場合には醜形恐怖症に当てはまらないのかというとそういう訳でもありません。
そこまで症状が進んでいない人もいれば、人目に触れるのは強烈な不安があるものの仕事だけは何とか頑張っている、という人も中にはいます。
摂食障害に関連する心配事とは異なる
摂食障害は、自分の体重・体型の適切な認識が難しくなる障害です。
体重が減っているのに「極端に太っている」という思考にとらわれて拒食に陥ったり、その反動で過食する・体重が増えることを極端に怖がったりするなどといった症状がみられます。
自分の身体に対する認識のズレが目立つという部分もありますが、醜形恐怖症はこの摂食障害の症状だけでは説明がつかないことが多く、それぞれ個別の障害となります。
また、摂食障害は「太っている」という体全体に対する悩みを抱えたり、「体がずっしりと重たい」「お腹になにか入っているような感覚」を訴えるのに対し、醜形恐怖症は体の特定の部分が劣っているという認識が強く、特に体の感覚についての訴えは聞かれないという特徴があります。
ただ、関連性はあり、醜形恐怖症の人が摂食障害を合併することもあります。
両者は好発年齢がだいたい同じであることから、どちらが先に起こったか明らかでない状況も多々みられます。
強迫症の関連症状として分類されている
強迫(きょうはく)症というのは、自分の意志とは無関係に沸き起こる考え「強迫観念」と、その考えにより起こる不安や苦痛を取り除くために繰り返し行う「強迫行為」により構成される病態のことです。
たとえば「不潔恐怖」で代表されるものは、
- 強迫観念=手が汚れているという思考に囚われる
- 強迫行為=頻回に手を洗ってしまう、ドアノブやスマホ、コード類など至るところの消毒を何度も繰り返す
などが挙げられます。
醜形恐怖症に当てはめると、
- 強迫観念=自分の体の一部・複数が奇妙でおかしい、という思考が起こる
- 強迫行為=鏡で何度も確認する、繰り返し家族や友人に尋ねる、おかしいと思う部分を頻回に隠す・カモフラージュし続ける
といった形として現れます。
醜形恐怖症と診断された約3割の人が強迫症を抱えているとされており、関連性の高い症状でもあります。
自覚症状に乏しい
また、他者が何か励ましの声かけをしたり考えを言ったとしても、それが事実だとは思えません。
「気にしなくても大丈夫だよ」
「私からみたらそんなに気にならないよ」
「あなたが言うほど変じゃないよ」
他の人からのそういった言葉で、「自分は間違いなく醜い」という考えは修正できないということになります。自覚症状に(自分の体が醜いと考えるのは思い込みであり、症状であるという認識)に乏しいのもこの障害の特徴といえるでしょう。
人によっては「不合理である」「やりすぎである」ことを自覚していても、不安がつきまとい、確認やごまかしがやめられないという場合もあります。
家族や友人・担当医に対して、自分から「ここの部分がおかしいですよね」と聞いて、それに「全くおかしくないですよ」と回答しても、まったく意見を聞き入れることはありません。
「遠慮して本当のことを言えないだけだ」とか、「傷つけないためにわざとそう答えているだけだ」と自分の中で結論付けてしまいます。
また人目に触れる職業(モデルや受付など)に就いていても、あるいは容姿が重要視される仕事で採用されていたとしても、「こんな見た目だから価値がない」と思い込みがちです。
美容医療は効果が出にくい
醜形恐怖症は精神障害の一つですが、先述したように本人はあくまで「外見の問題」としてとらえているため、当然ながら最初に相談するのは皮膚科や形成外科が多くなります。
皮膚の傷跡がどうしても気になるから消したい、黒ずみをなくしてほしい、頬骨が出ているから削りたい、足が太いから削りたい・・・といったような悩みで来院することが多いでしょう。
美容医療(整形や脱毛など)を受けても「自分は異様に醜い」という考えから抜け出しにくいものの、美容医療にこだわりやすく依存しやすいのも特徴の一つです。
例えば、目の形が気に入らないから目の形を変えたい、と目頭切開の手術を受けたとします。
では目の形が変わったからといって醜形恐怖症が改善するかというと、前述のとおり、思い込みの修正は難しい場合がほとんどです。
- 新しい目の形に一時的に満足したのち、また目の形がおかしいと思い込むようになる
- 目とは全く違う場所が異様におかしいと思うようになる
- そもそも一時的な満足感すら生まれない場合もある
- 目元の傷跡が気になりだし、症状がより悪化する
- 痕跡が残らなくても整形がバレるのではないかと怯えるようになる
といったように、気になる箇所を変えても根本的な解決には至らないのがこの障害の特徴でもあります。
何度手術を受けても満足できない、整形費用の工面を親にしてもらえないがために暴れる・・・などといった状況から、友人や恋人・家族などが違和感を感じ、そうなってはじめて精神科を受診する、という流れになることもあるでしょう。
醜形恐怖症の原因と診断
原因
発症のメカニズムや明確な原因は分かっていませんが、虐待(ネグレクトを含む)や心理的トラウマとの関連性も報告されています。ただそもそもの性格的要因からメディアによる影響、そこへ更に思春期特有の自己像のゆらぎが加わるなど、多くの要因が複合して起きる可能性も否定できません。
虐待・ネグレクト
身体的・精神的な虐待が、醜形恐怖症の発症に関わるとされています。ネグレクトというのは育児放棄のことです。
また以下に示す心理的トラウマとも重複しますが、親に執拗に「太っているよね」「鼻が低くてかわいそう」などと言われ続けると、それが刷り込まれてしまい、子どもはその後どのような体型であっても「自分は太っている」「鼻が低いから、誰にも認めてもらえないんだ」と思い込んでいる傾向が強くなるようです。
心理的トラウマ
●恋人に目の左右差を指摘されショックを受けた
●体操服姿でいると、同じクラスの友人に「体毛が濃い」と言われた
●身長が高いことを揶揄され、いじめられた
●親に何度も鼻の低さに対して指摘を受けてきた
醜形恐怖症の人が心理的なトラウマを抱えていることも少なくありません。
しかしこれに関しても直接的な原因なのか、あるいは生来の性質に加え、他者とのやりとりが引き金になったのかは明確にすることは難しいといえます。
これらが病前性格を作り出し、本当のきっかけは他にある場合もあるでしょうし、複雑に組み合わさることもあるでしょう。
またトラウマとは言わないまでも、自分がトラウマを受け付けられた、憎んでいる親と自分の顔のパーツの一部が似ている、という場合でも自身のそのパーツを非常に憎むようになることも多いです。
うつ病
醜形恐怖症はうつ病との高い関連性が指摘されており、約90%がうつ病を併発すると言われています。
醜形恐怖症が先に現れ長引くことでうつ病を発症するケースと、うつ病が本来の病態であり醜形恐怖症が伴うケースに分かれます。特に30代以降になってから醜形恐怖の症状がみられるときは、他の疾患やうつ病が原因となり醜形恐怖の症状を呈していることも可能性として否定できません。
この場合は、うつ病の治療を行うことで症状の軽減がみられます。
パーソナリティ障害
パーソナリティ障害に伴い、醜形不安症が出現する場合があります。
パーソナリティ障害というのは認知や行動パターンに著しい偏りが目立つ障害のことです。
境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害などさまざまな分類がなされており、気分が不安定なことから、醜形不安を訴える部分もあちこち変わりやすいのが特徴です。
親の養育態度
幼少期、親や養育者に「かわいい」とよく言われていたという醜形恐怖症の人は意外に多いと言われています。しかし、幼少期であれば「かわいい」ともてはやされるのはよくある体験のように感じます。
ただ醜形恐怖症の人の場合、親が容姿について褒めていたことに加え、
- それ以外の時間は常に親が不安定・不機嫌・放任気味であった
- 容姿をほめられた以外は、怒られていたり不満を言われていた記憶が圧倒的に多い
- 他の兄弟を常に優先していた
などといった内容も醜形恐怖症を抱えた人によく聞かれるエピソードといえます。
つまり、その個人にとって親との関わりが「かわいい自分であるときのみ」成り立っているという刷り込みが繰り返され、「かわいい(容姿に優れた)自分であることだけに価値がある(=優れていなければ価値がない)」というイメージが確立されていってしまうという部分も、要因の一つとして考えられています。
完璧主義者に多い
醜形恐怖症を抱えた人には、漠然とした「完璧な容姿」「理想の姿」というものがあります。
しかし、本人にも言語化するのは難しかったり、具体的にどうすれば完璧な姿になるのか表現することが困難であったりします。
徹底した完璧主義ともいえますが、「より理想に近く、より優れている状態」を追い求めていても、理想の姿に辿りつくことはありません。
遺伝的要因
遺伝的要因ははっきりしていませんが、近親者にうつ病が多いとの報告があります。
メディアの影響
美容医療の宣伝や、テレビや雑誌で「痩せた・完成された美」をもてはやすメディアなどの影響も取りざたされますが、醜形恐怖症が最初に報告されたのは先述の通り1886年であり、メディアが台頭するより以前に既に症状を抱えていた人がいたわけですから、要因としては弱いといえるでしょう。
診断
醜形恐怖症の診断は以下の基準によってなされます。
- 他の人からはその欠点が確認できない(そもそも目に触れることのない箇所にある)・あるいは観察しても些細なことに思える外見上の欠点にとらわれている
- 外見上の欠点に強くとらわれ、何かを繰り返し行ったり考えたりする(ずっと鏡を見続ける、あるいは何度も確認する、皮膚や髪をむしるなど)・あるいは、自分と他人の外見を比較する
- 外見上の欠点に強くとらわれ、強い苦痛を感じていたり日常生活に(職場や学校、家庭内、人間関係などで)支障をきたしている
- 摂食障害に関連する心配事とは異なる
醜形恐怖症の治療
基本的には外来通院にて、強迫性障害に対するものと同じ治療を行います。
入院治療になるパターンはほとんどありませんが、自殺企図(自殺を実際に試みる)がみられている場合など、命を守る目的では入院治療になることもあります。
薬物療法
主に抗うつ薬を用いて治療を行います。
特に醜形恐怖症に効果があるとされているのがSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる薬です。脳内の「セロトニン」という物質の働きを高めることで神経伝達をスムーズに行えるようにして、不安や落ち込みを改善させるものになります。
醜形恐怖症の場合は、身体に対するこだわりや不安・苦痛などが楽になる効果が期待できるでしょう。
また、症状や状態に応じてその他の抗うつ薬・薬剤を使用して治療を進めていくことになります。
認知行動療法
その名の通り、個人の「認知」にアプローチして、気持ちを楽にするための心理療法の一つです。醜形障害の研究が進んでいる欧米でもメインで行われている治療法となっています。
認知というのは“物事に対する受け取りかた・捉えかた”のことです。強いストレスにさらされていると、人はどんどんネガティブな思考に囚われてしまいがちです。
そのうち、本来は対処できていたはずの課題でも大きく捉えすぎることによって解決する力がなくなってしまいます。
認知行動療法によって、そういった認知のゆがみを少しずつ修正していき、物事を正しく捉えるようにすることで適切に対処できるようにします。
醜形恐怖症の治療としての認知行動療法であれば、
- 自分の容姿に対する強い思い込み
- 些細な欠点に対する認知のゆがみ
を修正するプログラムを組み、それに沿ってアプローチしていくことになります。
まとめ
醜形恐怖症のとらわれというのはコントロールが難しく、常に容姿について考えたり行動しなくてはならないため、とても辛いものです。また一人で悩んでしまう人が多く、自分を追い詰めてしまう傾向にあります。
「変だな」「見た目がおかしいな」となんとなく気になりだした状態から、少しずつ評価がマイナスなものに進んでいき、最終的に「醜悪でどうしようもない」「このまま人前に出るなんて地獄のようだ」という症状まで発展していくことも少なくありません。
特に対人関係でつまづくことがあったり、会社・学校でうまくいかないことがあると症状は一気に強まり、不安も大きくなる傾向にあります。不安と打ち消し行動のループに陥ってしまうと余計に苦しくなるため、自分や周りの人に醜形恐怖症に近い状態の人がいる場合は、医療機関に頼り、適切な治療を受けることを第一に考えましょう。
監修
新橋メンタルクリニック
院長 狩野 彰宏
「メンタルケアで全ての人が今よりも生きやすく輝ける未来を目指して」
明るい未来を紡ぐために、当院は一心一意に皆様の心に寄り添ってまいります。
心のお悩みや困りごとがありましたら、どうぞ何なりとお問い合わせをくださいませ。
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