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境界性パーソナリティ障害
〜激しい対人関係の変化と自己像の揺らぎ〜

一般的には「ボーダー」という呼び名が通例になっている境界性パーソナリティ障害。
この障害を持つ人はしばしば魅力的で、他には見当たらない非常に個性豊かな性格にみえます。
ところが、関係性を深めるにつれて相手の気分の移ろいがどうにも気になるようになり、何かよく分からない所で突然怒り、悲しみ、感情の起伏がとても激しい人であるという印象に変わってきます。
無邪気に接してくれていたと思えば、次の瞬間には急に気分が変わったように振る舞いを変え、まるで人が変わったかのように憎しみをぶつけてきて、痛烈に非難される。その極端さに驚く人もいるでしょう。

この内容を見ている人の中にも、「そういう関係性に引き込まれた経験がある」という人もいるかもしれません。もしくは、今まさに感情のコントロールが難しく、他人を振り回してしまうと思い悩んでいる当事者かもしれません。

境界性パーソナリティ障害を持つ人に振り回されているのは他人だけではありません。その人自身も、自分自身の気分を波立てないようにすることが難しく、その度に「苦しくてどうしようもない、もう全てを終わらせたい」と強烈な想いに駆られるのです。

今回は、境界性パーソナリティ障害の概要や原因・症状の特徴などを紹介していきます。

境界性パーソナリティ障害とは?

 

境界性パーソナリティー障害“見捨てられ不安”と呼ばれる強烈な不安感を根源として、思考や行動・対人関係パターンに偏りがみられる精神障害のことです。
英語ではBorderline Personality Disorderと表記され、頭文字をとってBPDと呼ぶこともあります。
1980年に、精神障害の診断と統計マニュアル(DSM-III)にて分類されており、「対人関係の不安定さ・傷つきやすさを持つパーソナリティ障害」として位置づけられました。

“見捨てられ不安”とは、その名の通り自分が見捨てられてしまうのでは?と感じる出来事などにとても敏感になる症状であり、

 

  • 連絡して1時間経っても返信が来ない
  •  待ち合わせ場所に10分遅刻してきた
  •  声をかけたのに素っ気ない返事をされた
  •  服装を普段と違う雰囲気にしたのに、何も言及されなかった
  • いつもと声のトーンが違っていた

といったようなことで、不安になるだけでなく「いても立ってもいられないような恐怖心」を抱くのが特徴です。

その恐怖心ゆえに、そういう感情を抱かせた相手に対して、

    • 不機嫌になり、激しい怒りを覚える
    •  怒りをそのまま相手にぶつけ、責め立てる
    •  返事が来るまで何度も相手に連絡する
    •  相手に幻滅し、急に関係を終わらせる
    •  感情をコントロールできずに泣いたり、破壊行為・自傷行為に走る
    • 自傷行為や破壊行為を相手に見せつけ、コントロールしようとする

といったような行動に出ることがとても多くあります。

またその対象はパートナーだけに留まりません。家族や友人・職場の人など自分に近しい人に対しても起こるものです。
しかし、目まぐるしく変わる気分や依存性、破壊的な言動により周囲は振り回されることになります。健全なコミュニケーションを図ることが困難になり、長期的な対人関係が築けないのが境界性パーソナリティ障害を持つ人の特徴でもあります。

 

“パーソナリティ”障害とは何なのか

人は、成長していくなかで様々な経験をしたり行動の特性を得ることで、個性(人格)というものが出来上がっていきます。
同じ出来事が起きても人によってとらえ方・対応の仕方はさまざまです。
しかし、その個性の偏りが強く、社会生活にうまく適応できず自分や身近にいる他者が困ってしまう場合があります。
つまり思考や行動、対人関係のパターンが不適応で柔軟性が著しく低下しているため、自分も他人も苦しめてしまう状況が続くのです。

それらの特性を持つ人たちを「パーソナリティ障害」と総称して呼ぶようになりました。

もともと精神疾患とも異なる、神経症とも違う「パーソナリティ障害」は、専門家の中で認知はされていたものの論文内で初めて言及されたのは1928年頃です。そこから半世紀近くの時を経て徐々に研究が進んできた、比較的新しい概念ともいえるでしょう。
現在はその特性によって計10種類に分類されていて、その中の一つが「境界性パーソナリティ障害」となります。
それぞれのパーソナリティ障害が個別に出現するケース・また併存しているケースが認められ、また発達障害がベースにある例もみられます。

「境界」とは何なのか

例えば、依存的・服従的に他者にしがみつく傾向のあるのが「依存」性パーソナリティ障害、演技的行動により人の注意を引き付けようとする特性を持つのが「演技」性パーソナリティ障害と呼ばれています。
それでは、境界性パーソナリティ障害の「境界」は何を指しているのでしょうか。

これは精神医学の歴史の中で、精神疾患でもなく神経症でもないパーソナリティの病理を表現する際に用いられたのが由来とされています。
まだパーソナリティ障害についての研究が現代ほど進んでおらず、細かく分類分けされていない1960年代に「精神疾患」と「神経症」の境界であるという意味合いで「境界パーソナリティ構造」と名付けられたのが最初です。
その名残という解釈が分かりやすいでしょう。

境界性パーソナリティ障害の有病率、性差、診断

有病率

人口のおおよそ2%ほどの人が有していると言われています。

性差

国内で診断された人の7割近くは女性です。ただアメリカ内部での調査では男女比に差はないという報告もあり、実際の性差は分かっていません。

診断基準

下記の9つの項目のうち、5つ以上該当する場合に境界性パーソナリティ障害と診断されることになります。

 

  1. 現実に・または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふり構わない努力
  2. 理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係

  3. 同一性の混乱:著明で不安定な自己像または自己意識を常に抱いている

  4. 自己を傷つける可能性のある衝動性で,少なくとも二つの領域にわたるもの(例:散財,安全でない性行為,物質の乱用・過剰服用、無謀な運転、過食など)が存在する

  5. 自殺の行動・脅し・または自傷行為の繰り返し

  6. 急激に起こる感情の不安定性(通常は2~3 時間ほど持続し、2~3 日以上持続することはまれな強い不快、イライラ感、または不安感情)

  7. 慢性的な空虚感

  8. 不適切で激しい怒り,または怒りの制御が困難(例:コントロールできない強い怒りやかんしゃくを起こす、いつも怒っている、激しい喧嘩を繰り返す)

  9. ストレス関連性の妄想様症状や重篤な解離症状が一時的に出現する

また、これらの症状が成人期早期までに始まっている必要があります。

上記の診断基準をまとめると、自尊心の低さが目立ち「自分が何者であるか」が分からなくなる、自分がまるで自分ではないような感覚をなかなか払拭できません。
見捨てられるのではという強烈な不安から、たまに妄想的になる特徴もあり、自分に一点の曇りもない愛情を注いでくれる人物こそが「善」であり、それ以外は「悪」という評価を下しやすい一面もあります。

そのため些細なことでも強い不安に陥ったりパニック状態になりやすく、相手に対して怒りを一気に表出させる・失望を表現するなど非難します。「相手に見捨てられないためのなりふり構わない努力」というのは、ある時は自分の意志とは無関係に従順になる態度を指すこともあれば、自傷行為・自殺の脅しのような形で「とにかく関心をこちらに向けたい」という行動を指すこともあります。
そのあと相手がどう感じるか、相手との関係がどうなるかまで想像することは難しいです。

そのような対人関係パターンを繰り返し、パートナーや友人など近しい存在の人と健全なコミュニケーションを築くことが困難になる、というのが境界性パーソナリティ障害の概要といえるでしょう。

境界性パーソナリティ障害の原因

原因

境界性パーソナリティ障害を引き起こす原因は、遺伝的要因・環境要因があります。
これらは単独で発症の原因になることもありますし、2つの要因が重なって発症に至る場合もあるでしょう。
もともと家族に何らかの精神疾患があり、心理的な脆弱性(精神的なもろさ)を遺伝として持ち合わせた人が過酷な環境要因に晒された結果、境界性パーソナリティ障害を引き起こすケースも存在します。

遺伝的要因

両親のいずれかが何らかの精神疾患・障害を持っている場合、その子どもが境界性パーソナリティ障害を有する可能性があると言われています。
境界性パーソナリティ障害を持つ患者の家族歴を追った研究では、両親いずれかが精神疾患を有している確率が42.2%と高い結果を示していることからも明らかです。

関連性が指摘されている精神疾患・障害としては

    • 境界性パーソナリティ障害
    •  うつ病
    •  躁うつ病
    •  統合失調症
    •  不安障害
    •  反社会性パーソナリティ障害
    • アルコール依存症

などがあり、研究によって確率の幅はありますが境界性パーソナリティ障害を有している例は11.7%~17.2%と最も高く、次いでうつ病が12.5%となっています。

環境要因

また遺伝的要因のほかにも、幼少期に過酷な養育環境にあった場合に境界性パーソナリティー障害を発症する起因になることがあります。

 

心的外傷体験(トラウマ)

身体的・精神的虐待、また性的虐待など親からの虐待が認められた場合・あるいは性暴力の被害に遭った、などのケースで境界性パーソナリティ障害の発症する確率が高くなることが知られています。

それ以外でも、親などの近しい関係にある人との死別や離別など個人にとって強いストレスがかかる出来事があり、それに対して適切なケアがなされていなかった場合、あるいはケアがなされていてもストレスそのものが非常に強かった場合に発症のきっかけになることがあります。

また、上記のような心的外傷体験がある場合には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状であるフラッシュバックや過覚醒、また後述する解離症状を引き起こしやすいとされています。そのため、境界性パーソナリティの治療においては、このPTSDに対するアプローチも重要視されています。

社会的要因

また近年、境界性パーソナリティ障害は増加してきていると言われており、中には上記のような遺伝的要・環境要因に当てはまらないケースもみられるとの指摘があります。
また、社会的要因については明らかになっていないことも多いですが、可能性として現代社会の特性が挙げられているようです。

最も言われているのは核家族化の影響で、現代では一つひとつの家族が独立している傾向があり地域全体で子どもたちに関わる、という機会が非常に少なくなりました。
そのため、子どもは様々な視点や考えに触れることが少なくなり、代わりに親と子の密接な(時には密接過ぎる)関係のみが子どものパーソナリティに影響を与えるようになっているのが現状です。
親が非常に不安定な状態である場合、子どもは直接影響を被ることになり、それが健全な人格形成を妨げやすい傾向にあるといえるでしょう。

境界性パーソナリティ障害の症状

症状としては、以下のものが挙げられます。

自己像の曖昧さ

自分自身に対する評価がコロコロと変わります。
自分の意見や目標・趣味・価値観なども変えていく特徴があり、まるで別人のようにふるまうこともあります。
また仕事や学校についても同様で、受かりかけていた大学や仕事を辞退するとか、卒業を予定していた学校を辞めてしまうなど志していたものを急に変えることがあります。

自己像の曖昧さは、時に「自分がない」「自分が自分ではないような感覚」「心や体が現実から切り離されているような違和感」を生み、当事者にとっては生きている実感がないといったような苦しみを持つ例が目立ちます。

自他の境界の曖昧さ

「自分」と「他人」は別物です。それぞれ生き方も違えば、考え方も違います。
それが頭で分かっていても、心ではどうしても納得いかないことを「自他の境界の未分化」と呼びます。
相手には相手の特性があり、生活があります。時にはぶっきらぼうな態度になるかもしれませんし、忙しくて連絡が取れないことがあるかもしれません。
ある時は、物事に対する捉え方が違うこともあるでしょう。精神の発達段階ではそれらを理解しながら、自分と他人は「違う存在なのだ」と自他の境界が徐々についてくるものです。

ところが境界性パーソナリティ障害がある場合、そもそも自己像そのものが曖昧であるため、自他の境界も曖昧です。そのため、「自分と他人は違う存在」というものが頭では理解していても心ではそれがどうしても納得できない、許しがたいものになります。

感情コントロールが困難

 

パニック愛情の飢餓、相手への期待(理想化)、自他の境界の曖昧さも加わって、「自分がこう考えているのだから、相手もこう考えてくれるのが当然だ。本当に愛しているなら、こうしてくれるはずだ。本当に見捨てない気持ちがあるなら、自分の痛みを100%理解してくれるはずだ。連絡がないのが不安だと伝えたから、これからはすぐに連絡を返してくれるのが当然だ」
境界性パーソナリティ障害の人は、こう考えます。こう考えているのに、相手が自分の期待通りの言動をしてくれなかった。まるで自分の痛みを100%理解していないようだ。自分の不安を伝えたのに、10分待てど、20分待てど相手から連絡が返ってこない。

そもそも見捨てられ不安を抱えているため、連絡がこないのは「見捨てられる兆候だ、あるいはもう見捨てられたのかもしれない」と強烈な不安に襲われます。
不安にさせた時点で、相手は自分にとっては「愛をくれない、自分のことを分かってくれない人」です。そのため強い怒りが沸き、相手をひどく罵ったり強く失望したりします。

 

パニックになったり強烈に怒った後は、自責感に苛まれたり落ち込んだりと感情がジェットコースターのように変化しやすいのが特徴です。

「相手に見捨てられそうな兆候がある」、境界性パーソナリティ障害を持つ人がそう感じた時点で、相手の都合を考える余地はないのです。そのため相手に望む行動を起こさせるように何度も何度も不安を訴えたり連絡を繰り返したり、下記の衝動的行動に至ります。

<衝動的行動>

境界性パーソナリティ障害でよくみられるのが、強い不安と衝動をコントロールできないことで起こる不適応な行動です。
ギャンブルや衝動買いなどでの散財や物質乱用、処方薬・市販薬の過剰服用、自傷行為などがこれらに当てはまります。

・自傷行為

境界性パーソナリティ障害の自傷行為そのものは、自分に注意を引き付ける意味合いを持つ場合もあれば、下記の「解離症状」と呼ばれるものへの抵抗から行わることもあります。
自傷行為と呼ばれるものには身体に傷をつけるリストカットや壁に頭を打ち付けるといった直接的なものから、過食・薬物の乱用なども含まれるといえるでしょう。

・解離症状

解離症状とは、「自分自身と身体・心がまるで切り離されているように感じたり、世界そのものが人工物・無機質なものであると感じられるようになる症状」のことです。

この症状は持続的に続くことが多くみられ、自分の心や体がまるで自分のものではないような、耐えがたい苦痛を伴います。そのとき、自傷行為によって痛み刺激を得ることで「自分は生きている」という実感を得ることができるのです。
メディアなどでよく聞かれる、「自傷行為をすることでしか生きている実感が出てこない」という当事者の言葉は、これを表しています。
自傷行為そのものはとかく問題にされがちですが、境界性パーソナリティ障害を持つ人にとっては痛み刺激こそが耐え難い苦痛から逃れられる唯一の手段である、ともいえるでしょう。

自殺企図(じさつきと)

自殺未遂のことです。こちらも自傷行為と同様に、主に他者の注意を引き付けたり操作するための行動として引き起こされます。
相手がこちらに注目をして心配し一時的に優しくなったり、近づいてくれたりすることを見越して行うことが多いでしょう。
周囲の人達を自分の思い通りに動かしたい気持ちがこの「操作性」を生むわけで、自殺のほのめかしをして相手をコントロールしたいという欲求が根底に存在します。

そのため相手に大きく失望したり、どうにも相手の関心がこちらに向かないと絶望したときに自殺企図が起こりやすいと言われています。

ただ当然ながら何度も自殺のほのめかしを受けている相手にとっては、その度に疲弊してしまうのでそのうち手に負えなくなってしまいます。
しかし他者の「どうせまたアピールだろう」という態度は最も危険な反応であり、思い通りの反応を得られないと分かるといよいよ決定的な自殺企図に移るのが特徴です。

ある研究では境界性パーソナリティ障害と診断された64名の症例中、37名が何らかの自殺未遂を起こしています。確率でいうと57.8%にも上ります。

適切な治療を進めれば症状の大きな改善が見られるケースがある一方、本人や周りが境界性パーソナリティ障害に気が付かなかったり、気が付いても医療機関の受診などを行わずに治療が受けられない場合には、命の危険に晒されることがあるという点は念頭においたほうがいいでしょう。

他害行為

自傷行為など自分を傷つける行為のほか、相手への暴力、ストーカー行為を繰り返すなど他害行為も見受けられることがあります。自傷行為などと形は違えど、「相手から思い通りの反応を引き出すための操作行為」であることは変わりありません。
ストーカー行為については当事者や第三者から再三の注意を受けたり、警察が介入してもやめられないことも多いです。

前述のとおり自他の境界が曖昧であること(相手は相手の都合や考えがある、ということが心で理解できない)、また見捨てられ不安が重なり居ても立ってもいられなくなり相手にアンサーを求め続ける場合が多いでしょう。

当然ながら、自分の望む答えを貰えるまで行動し続けるのと同じであるため、別れ話を受け入れられない場合は相手が別れを撤回するまで何度も連絡したり、家に押しかけたりなどを繰り返すことがあります。

不安定な対人関係

上記の思考・行動から、周りとの関係性を長期的に築くことが難しく、相手を急に理想化したかと思えば思っていた人とは違うと分かるとこき下ろしたりすることがあります。
あるときは相手に執着することもあれば、あるときは急に特定の人間関係を絶ったりと反応も様々です。
また自分から関係を絶つこともあれば、相手が感情の起伏の激しさや脅しの行為についていけなくなり、離れていくこともしばしばあります。

予後

前述のとおり、境界性パーソナリティ障害があると自殺企図を起こしたり実際に自死に至ったりする確率が非常に高いです。

ただ、適切な治療を受けるとか大きな改善がみられると言われるのも境界性パーソナリティ障害の特徴です。
治療開始から約2年で40%ほど、また6年経過後には80%に上るケースで症状が寛解した(症状がみられなくなり、診断基準を満たさない状態になった)と示す研究報告も存在します。

もちろん根気よく治療を続ける必要はありますが、治療予後は決して悪くない障害ともいえるでしょう。

境界性パーソナリティ障害の治療

治療法

薬物療法通院治療・必要である場合は入院治療を行うことがあります。境界性パーソナリティ障害そのものに有効な薬などは現在ないため、併存する他のパーソナリティ障害や症状に合わせて処方されることになります。
また、PTSDを併存しているケースも非常に多く見受けられるため、PTSDがある場合はそちらにも考慮したアプローチが必要です。
各種精神療法も境界性パーソナリティ障害の治療に有効とされています。

自殺企図に対する医療機関の役割

下記の治療のみでなく、自殺企図・その他の自傷行為などの緊急性のある行動化に対しても、医療機関が大きな役割を果たします。時には入院加療を通じて家族や知人と離れ、自分の状況を客観視することそのものが、いったん落ち着きを取り戻すための手段として用いられることもあるでしょう。

また、境界性パーソナリティ障害の治療においては本人に加えて家族やパートナー、医療スタッフなど周りの協力も不可欠になります。
医療機関が中心となってそれぞれが足並みを揃えることが、治療の一助となるということを理解しておく必要があります。

薬物療法

薬物療法は以下になります。

抗不安薬

抗不安薬は、その名の通り不安が強いケースで用いられますが、気分の変動を和らげる作用もあります。
衝動性の緩和も認められていますので、境界性パーソナリティ障害で用いられることが多いです。

抗精神病薬

こちらも不安や怒りのコントロールが行いやすいように投薬することがあります。
また、一時的にストレスが強くなることによって起こる認知のゆがみ(物事の捉え方が偏ったりする)を抑える効果もあります。

抗うつ薬

抗うつ薬は本来落ち込みがみられる場合に脳内環境を整える作用を持つ薬を投薬する場合もあります。
境界性パーソナリティ障害についても投薬される場合がありますが、障害そのものに対する有効性はわずかと言われています。

いずれも、回復のための助けの土台を作る目的で使うことが多いでしょう。

精神(心理)療法

精神療法も重要な治療ステップの一つです。薬物療法と併用することで落ち込みを少しずつ減らしたり、衝動的行動や不適切な反応を軽減させる効果があります。
境界性パーソナリティ障害に適応する精神療法は様々なものが存在していますが、一部を紹介します。

弁証法的行動療法

個人・あるいはグループで行うセッションで、ストレスに対処するための適切な方法を患者が見つけるのをサポートする治療法で、認知行動療法の一種でもあります。
衝動的行動や自殺企図を軽減させること、また怒りのコントロールに効果があるとされています。

スキーマ療法

生きてきた中で身についた考えや感情、行動などに関する、不適応なパターンを明らかにし、適応的なパターンに置き換えていく治療法です。
認知行動療法ではなかなか改善が難しい深いレベルの苦しみを軽減させるのに役立つと言われています。

メンタライゼーション

自分と他者の感情や考えについて、理解する能力を育む治療法です。
「どうして自分はあの人のあの言動についてイライラしたのだろう」「あの人は、どういった感情が理由でこういう行動をしたのだろう」など、様々な視点から心理状態を考えます。
メンタライゼーションの能力に乏しい境界性パーソナリティ障害にとって、さまざまな視点から自分の気持ちや相手の気持ちをゆっくり考える機会となります。

精神療法の利点

境界性パーソナリティ障害において各種症状や混乱が強くなる場合、各種の要因が複雑に絡み合っているケースがあります。
例えば「誰かに嫌なことを言われた」とか「恋人に別れを告げられた」というきっかけが単独で激しい怒りをコントロールできなくなったりパニックになったり、自傷行為などの症状が発生することもあれば、それに加え背景としてもともと就職活動が上手くいっていないとか、学業・仕事が休みがちになってしまっている・普段から熟睡困難感があるなどのパターンも存在します。

つまり解決していない現実問題をベースにして、新たに問題や不都合が発生した際に一気に本人の許容範囲を超えてしまう場合もあるというわけですね。

それらの現実的な問題がある場合、それらに対する気づきや認識を促しながら、不適切な反応から適切な反応に変えていけるように支援することもありますし、それらの気づきの中で、また新しい視点に気づく機会になることもあります。

本人のみの視点では気づかないことでも、専門家の手を借りて少しずつ一緒に明らかにすることでより治療効果を大きくすることができるのが精神療法のメリットといえるでしょう。

まとめ

境界性パーソナリティ障害を持つと、その当事者も強く苦しみ、またその苦しみに自身が振り回されてしまうことで、結果的に周りの人も振り回されることになります。

「見捨てられ不安」という不安感・ストレスにより、本来であれば継続していけるはずの関係性が壊れやすくなったり、見捨てられる不安が強すぎるせいで結果、人が離れていってしまう、というような悪循環をもたらすことも非常に多い障害です。

その見捨てられ不安の裏側には、本人が自覚している・あるいは無自覚であるトラウマや苦しみが潜んでいることも多くあります。
当事者のみで改善したいと感情のコントロールだけしようとしてもなかなか難しく、また周りがサポートしたいと考えていても衝動的な行動に疲れきってしまうことも少なくありません。

苦しくてどうしようもない、衝動がどうにもコントロールできない、と感じたときにはまずは苦しみを少しずつでも軽減させることが重要です。
「見捨てられ不安」という不安そのものも少しずつ小さくしていくためにも、医療機関のサポートを受けることをおすすめします。

監修

新橋メンタルクリニック
院長 狩野 彰宏

「メンタルケアで全ての人が今よりも生きやすく輝ける未来を目指して」

明るい未来を紡ぐために、当院は一心一意に皆様の心に寄り添ってまいります。
心のお悩みや困りごとがありましたら、どうぞ何なりとお問い合わせをくださいませ。

院長

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