ADHD(注意欠陥・多動性障害)

ADHDとは

発達障害とは

ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの症状が主にみられる発達障害の名称です。

ADHDと聞くと、「落ち着きがない性格」「うっかりミスが多い」「注意散漫」といったような印象を持つ人も少なくはないでしょう。
しかしADHDは心の問題や単なる性格ではなく、行動をコントロールする脳の機能の障害・特に前頭葉と呼ばれる「物事を論理的に考える力」「注意力」を司る部分が働きにくくなることで引き起こされやすくなると言われています。

また、脳機能の影響でADHDの特性が生じやすくなるといっても、さまざまな要因が絡み合って症状が出現します。
落ち着きがないことや物事に集中しづらいといった部分は学童期の場合は授業や学業、成人期においては仕事に直結しますが、その他にも親や学校の先生・職場であれば上司などから注意を受ける機会も多くなりやすく、不注意や約束を忘れるなど友人関係でのトラブルも増えやすいのが特徴です。
そのためADHDを捉える際には不注意や多動など症状そのものに着目するだけでなく、いじめや不登校・うつ病に繋がるような気分の落ち込みなど二次的な問題も発生しやすいことを念頭に置いておいたほうがよいでしょう。

アプローチ方法も、症状そのものを改善するというよりはADHDを持つ人の周りの環境(親や教師・学校や職場)を整えたり、本人が集団の中で適切にコミュニケーションが取れるよう・また自分の不注意や衝動性などを出来るかぎりコントロールできるように、社会参加に対するスキルを身に着けていくことになります。

ADHDの概要・症状の特徴やアプローチ方法などを紹介していきます。

前述のとおり、ADHDは脳の前頭葉と呼ばれる部分の機能不全・また脳内の神経伝達物質の不足が原因で起こります。
また中核を成すのは「不注意」「多動性」「衝動性」といった3つの主要症状です。
症状の項でもお伝えしますが、症状の現れ方の特徴によって分類されます。

不注意優勢型

不注意のみがみられ、多動は伴いません。注意散漫さが目立つため一つのことに集中したり完成させたりすることが苦手です。また、人に話しかけられたり会話の最中にも人の話に注意が向けられないことがあり、人の言った事を聞いていないことでトラブルに繋がるなどといった問題を引き起こすケースがあります。
ミスや忘れ物が多く、注意を受ける機会が多くなることで自己評価が低くなってしまいやすくなることでも知られ、不登校といった状態に発展することもあります。

また、不注意のみが見られるタイプは注意欠陥障害(ADD:Attention Deficit Disorder)とも呼ばれます。

注意機能は、大まかに分けると、

  • 持続性注意:集中をし続ける能力
  • 転導性注意:集中していた対象から違う対象に注意を切り替える能力
  • 分配性注意:2つ以上の物事に、同時に注意を向けることが出来る能力
  • 選択性注意:向けるべき刺激に注意を向けることが出来る能力

となります。
そのため“不注意”というのは、これらの能力をうまく働かせることが出来ない状態を指します。

多動・衝動優勢型

落ち着きのなさ・多動、また衝動的な行動が目立つタイプです。
じっとしていないといけない場面でもじっとしていられずに、授業中に立ち上がって歩きまわるとか座っていてもずっとソワソワしていて無意識のうちに身体を動かしてしまっていたり、授業に集中できないといった場面がみられます。
順番やルールを守ったり、じっと待つということが難しいためにルールを破ったり割り込んだりなどといった行動がみられることもあります。
成長に伴い、不注意の特性が目立つようになると下記の混合型タイプに移行していくと考えられています。

混合型

不注意と多動・衝動性が併存してみられるのがこのタイプです。
不注意によるミスなどで注意を受けることが多かったり、学業・仕事上でのトラブルによってストレスを受ける場面が目立ちます。またストレス過多になる出来事が重なることをベースに、さらに衝動を抑制しにくい特性も持ち合わせているため、些細なことでカッとなってしまう・トラブルに発展すると人のせいにしてしまうなど社会活動に支障が出やすいのが混合型の特徴です。
これらの体験の積み重ねから、思春期以降に非行に走るケースも少なくありません。

有病率

ADHDの有病率は世界的にみると小児期において5%、成人期だと2.5%と報告されています。日本国内での有病率の調査は非常に少なく、正確な有病率は把握できていない状況ですが成人期の有病率は1.5%程度前後という研究結果が確認されています。

世界的な有病率をみてみると、成人期のほうが少ないパーセンテージを示していますね。
これは、小児期にADHDの診断を受けていたとしても成人期以降は診断基準に満たない症状まで落ち着いていることが多いからと言われています。
「診断基準に満たない症状」ということですから、完全に症状がなくなるわけではありません。海外の研究をみてみると、小児期にADHDの診断を受けた60~75%程度は不注意・多動などの症状が軽減したとしてもいくらかの症状が残るといわれています。

性差

ADHDは男児のほうが有病率が高く、女児の2.5~3倍ほどです。
ただ、男児のほうが多動や衝動性などの症状が女児より目立ちやすいことも考慮する必要があります。

ADHDの診断

ADHDの診断基準は、「不注意」と「多動症・衝動性」に分けてより具体的な診断基準が存在します。

大まかには、

  1. :「不注意(活動にたびたび集中できない・作業が粗雑で不正確である・会話や講義中などに注意がそれやすい・時間や物の管理が苦手・作業に一貫して取り組むことが難しいなど)」と「多動-衝動性(順番を待つことが苦手・しばしば離席してしまう・不適切な場面で走り回ってしまう・他人の課題を妨げ、邪魔をしてしまうなど)」が6つの項目で当てはまり、かつ6か月持続してみられていて、学業や仕事・発達の妨げになっていること
  2. :不注意症状・あるいは多動・衝動性の症状が12歳以前より認められること
  3. :不注意症状・あるいは多動・衝動性の症状が2つ以上の状況において(家庭・学校、職場や親せきなどと一緒にいるとき)出現していること
  4. :症状によって対人関係・社会活動や学業的・職業的な機能を妨げているという明確なエピソードがあること
  5. :症状が、統合失調症や他の精神疾患・精神障害によるものではないこと

という上記5項目が、ADHDの診断基準となります。

ADHDの要因

子どもがADHDの特性を持ち合わせる要因として、遺伝的要因・環境要因が挙げられます。「生まれつきの障害」と言われることもありますが、それらの要因は胎児期や出生時のみならず生後1歳半までに影響するとも言われます。一概に「生まれつき」に原因があるとは言えないわけですね。
また欧米を中心とした研究にて、遺伝的要因と環境要因が組み合わさることでADHDの有病率が上がることが明らかになってきています。

遺伝的要因

ADHDは、他の発達障害と比較すると遺伝的要因が特に強く影響すると言われており、ADHDを有病している人の第一度親族(兄弟姉妹や子どもなど)は、そうでない人と比較してADHDのリスクが5倍になることが報告されています。

また双生児に対する研究では一卵性で50~80%、二卵性で30~40%の発病一致率があります。発病一致率とは、双子がどちらともADHDを有病する割合をパーセンテージで示したもの、ということですね。

環境要因

環境要因は、更に物理的要因と科学的要因に分類されます。

物理的要因

その名の通り、物理的な力が加わることでADHDの発病確率が高まると言われています。
物理的な力というのは、

  • 出生時の鉗子分娩や吸引分娩(頭部への外力)
  • 出生直後の頭部外傷や脳障害(脳炎・髄膜炎などを含む)
  • 低体重出生

などが挙げられます。

科学的要因

科学的要因では、母親が妊娠しているときの生活様式がADHDの発症率が関係していると言われています。
つまり、母親が自覚的に・または知らない間に化学物質を体の中に取り入れることで、胎児が影響を受けADHDを発病する要因になり得る、ということですね。

化学物質とだけ聞くと自分とは馴染みのないものだという印象を受けますが、日常生活で摂取する可能性のある化学物質は数多く存在します。

  • 喫煙によるニコチン接種(受動喫煙も含む)
  • 飲酒によるアルコール摂取
  • 薬物(マリファナ・コカインなど)
  • 魚介類などからのメチル水銀の過剰摂取
  • 塗料や鉛管に使われる鉛の過剰摂取

特に母親の喫煙に関する研究は盛んに行われており、妊娠中に喫煙をしていた群の胎児は、しなかった群の胎児と比べて約3倍ものADHD発病のリスクがあるとされています。

虐待との関連性

ADHDと虐待との関連性乳幼児期に物理的虐待・精神的虐待やネグレクトなどを受けた子どもについてもADHDの発病リスクが高まるとの報告があります。
しかし、それらの報告は遺伝的要因・環境要因との関連性に関する研究と比較すると明確な根拠が示されていない場合が多く、出生後の養育環境よりも母体にいる段階や出生時・出生直後のタイミングで既に発病リスクが高まっていると考えたほうが妥当といえるでしょう。

ADHDの症状

症状は年齢によっても大きく変わってきます。取り巻く環境が変わるためです。
乳幼児期から成人期まで、どういった症状が目立ちやすいかを見ていきましょう。

乳幼児期

  • ぐずりが目立ち、あやしてもなだめにくい
  • 睡眠が不安定
  • 抱かれるのを嫌う
  • しょっちゅう身体を動かしている
  • じっとしていることが苦手で過剰に動き回る
  • 気になるものを見つけるとそれに向かって急に走り出す
  • ルールが守れない(順番が守れない)
  • かんしゃくを起こしやすい

などの症状がみられます。しかし、乳幼児期はそもそも「こういう子どももいるのだろう」とか、「子どもの特性である」として周りの大人があまり問題視していない場合がほとんどです。乳幼児であればぐずることもあるでしょうし、注意の対象の移り変わりの激しさも、活発に動くことも当たり前といえるでしょう。
現に、ADHDが指摘されるのは5歳~10歳ころが多く、少しずつ集団生活に慣れる必要が出てくるときにようやく、発達の水準からすると落ち着きがないとか集団行動にそぐわないなどといったことが問題視されるようになります。
周りは「もっと早く気づいていれば」という気持ちになるかもしれませんが、子どもゆえの活発さとADHDの特性による多動や落ち着きのなさを鑑別することは難しく、乳幼児期の時点ではなかなか発見されないのが普通です。

ただ、多動や不注意が非常に目立ち擦過傷や打撲など、大小問わずケガをしょっちゅうしていたと回述される場合などは早めに発見を受けることもあります。

学童期

学校に通い始めると、集団行動や自律的に行わないといけないことが必然的に増えるため症状が目立ち始めます。

不注意優位の場合

  • 最後まで話を聞くことが難しい
  • ささいなことで注意がそれやすい
  • ノートやメモを取ることができない
  • 忘れものが増える(宿題や授業に必要な物品など)
  • ミスが目立つ
  • 約束や人が言ったことを忘れてしまう

多動・衝動性優位の場合

  • 授業中にじっと座っていられない(ソワソワ体を動かしたり、移動したりする)
  • 多弁
  • 走り回っていることが多い
  • 物の取り扱いが粗雑になる(壊すこともある)
  • ルールの逸脱が目立つ
  • 道路など危険な場所に飛び出してしまう

 

ADHDの症状 学童期学童期はこれらの行動が目立ち、学校で教師に注意を受けたり家庭で親から怒られる機会が増えたり友人との関係が上手く行きづらくなることで、激しい反抗や非行へと移り変わっていく可能性が高くなるのが特徴です。
エネルギーが外に向くと攻撃的な行動が増えるでしょうし、内に向くと強い落ち込みや引きこもり・うつ症状などが見られるようになります。
不注意や衝動性によるケガが増えたり、交通事故などに遭ってしまう可能性が高くなるため注意が必要でしょう。

またADHDは知的機能そのものに影響を及ぼすわけではないので、学業成績の低下はみられないことも珍しくありません。ただ衝動性が強く、その場でじっとしていることが苦痛でいつもそのことしか考えられないとか、そういった時には無論授業や人の話には集中できていないので、学業に影響する場合もあります。

 

思春期(中高生)

思春期の場合は、より自分の特性やそれによって生じる問題を自覚している場合が多く、ひどい落ち込み・うつ症状などを呈することがあります。

不注意優位の場合

  • 失くしもの、忘れ物が多い
  • 約束事を忘れてしまう
  • 自分の考えごとや興味に集中するあまり他者の話を聞いていない
  • 時間管理の困難さが目立つ
  • 計画性に乏しく後回し癖が目立つ

多動・衝動性優位の場合

  • 落ち着きがない(授業中など座り続けることは可能になっている場合が多い)
  • 人の話をさえぎって(最後まで聞けず)話し始める
  • ささいなきっかけで憤怒する
  • 待たないといけない場面などを回避するようになる
  • 思いついたら即言動に移してしまう

反社会的行動が起きやすくなったり不登校になるケースも見られます。どちらか一方が必ず見られるわけではありませんし、不登校になりながら親や社会に反抗的な態度を取るといった両方の状況に陥ることもあります。

学童期よりも多動は落ち着いていることが多いでしょう。ただ、自分の多動性についても自覚している例が増えるため、多動や衝動をコントロールしなくてはならない(じっと座っておかないといけない・待たないといけない)場面を避けるようになるのも特徴といえます。

成人期

成人期においては、職業人としてより高度な作業が求められることが多く、高度な知識・専門的なスキルが必要不可欠になることも少なくありません。その中で、不注意によるミスを招きやすい・物事を覚えにくいなどといった状況は、社会人としての自信を失いやすい状況に陥るのは容易に想像できるでしょう。

不注意優位の場合

  • 周囲の動向が気になって、自分の仕事に集中できない
  • マルチタスクができない
  • 衝動買いをしてしまう
  • スケジュール通りに仕事を進めることができない
  • スケジュールを立てることが難しい

多動・衝動性優位の場合

  • 同僚や上司・グループとの共同作業に困難さが目立つ
  • 思ったことをそのまま口にしてしまう
  • 感情的になりやすく、職場での人間関係や知人とのトラブルが増える
  • アルコールやタバコなどの嗜好品、あるいはギャンブルなどに依存しやすくなる

学業であればミスとして許されていたり先生のサポートを受けられていたことが、社会人だと仕事上の大きなトラブルや損失に繋がったりするなどして、収拾がつかなくなることもあります。
また、不注意によるマルチタスクの難しさが目立つため、電話の内容を聞きながらメモを取るということがスムーズにいかず、伝達ミスをしてしまうケースも珍しくありません。
また会議で自分の意見が通らずに泣いてしまうとか、つい感情的になりやすく大騒ぎしてしまうなど、社会的交流に課題が残る例も認められます。

この時点では、それぞれの社会性を身に着けているため仕事内容によってはADHDの特性が出現してもカバー出来ていたり、あるいは症状そのものが軽減している場合も多いです。
しかし、一部の人は不注意によるミスなどが継続してみられます。

社会人としての自信を失うということは、自尊感情の低下にも直結し、より深刻な落ち込み・うつ症状や不安症状を招く要因にもなり得るので、この段階では心理的なカバーも非常に重要なポイントですね。

他疾患との関連性

ADHDは、しばしば他の疾患と併発することが知られています。

てんかん

てんかんとは、「てんかん発作」を繰り返す脳の病気の一種です。
突然、自分の意志とは関係なく脳に過剰な電気信号が流れるため、手や足、あるいは全身的にけいれん症状やピクつきのような運動が起こるのが特徴です。
ADHDとてんかんの関連性は高く、てんかん患者の約20%がADHDを併発するといわれています。

脳のどのような部位に、どのような範囲で、どのような長さで起こるかによって発作が起きる体の場所・範囲・長さは変わってきます。
また、単に併発しやすいというだけでなく、てんかん発作とADHDの行動障害との関連性も注目すべきポイントでしょう。抗てんかん薬でてんかん発作のコントロールが行えるようになるとADHDの行動障害についても改善がみられるという報告例がいくつか存在しているのです。

てんかん患者というのは他の疾患の患者よりも自尊感情に乏しいという報告がなされています。そのため、抗てんかん薬で脳波の乱れを改善することが行動障害の改善に繋がるという説と、脳波のコントロールが自尊感情の回復に直結することで、行動障害が減少するという2つの説があります。

不安障害・うつ病

 

不安障害・うつ病前述のとおり、ADHDによる生きづらさの二次的な弊害として不安障害を引き起こしたり、うつ病になったりすることがあります。
また、成人期のADHDであればこれら不安障害やうつ病の治療のために初めて医療機関に来院することになる人も多くいます。
その段階では、電話対応がなんとなく苦手だとか衝動買いがどうしても抑えられないとかそういった自覚はあっても、それがADHDの特性ゆえに起こることだとは夢にも思っていない、というケースが大半です。
なんとなく社会生活がしづらく、少しずつ自信喪失の機会を積み重ねていき最終的に追い詰められてしまうといった状況に陥りやすいのです。

不安症についても同様で、「自分が苦手だと感じる状況を避ける」というのは、「回避行動」と呼ばれます。一見うまくストレス対処をしているように見えますが、長期的にみると回避行動を繰り返すことは不安を増強する行為と言われています。
そのため会議を避けたり、電話を取る状況にならないようにするというのは知らず知らずのうちに不安症を招きやすいといえるでしょう。

 

各種依存症

先述の通り、各種薬物依存やネット・ゲーム依存、ギャンブル依存などが症状として現れやすいことが知られています。
金銭管理や時間管理、タスク管理が苦手であるADHDの特性は、そのまま浪費への意識の低さにも現れます。
買い物にお金を使いすぎる、ギャンブルにお金を使っていてもう生活費もない状態、といってもその行為をやめられません。

また、神経伝達物質の働きが弱いということは、脳内報酬系の働きも弱い、つまりやる気や喜びを感じにくいということになります。
ADHDの多動や衝動といった特性は、脳内報酬系を何とかして刺激してやる気・快感を得るための手段という説もあり、薬物やギャンブル・ゲームといった脳内報酬系を刺激しやすい活動に依存するのは理由の一つといえるでしょう。

ADHDの治療

治療法は、薬物療法と社会心理的治療の2つになります。

薬物療法

薬物療法では、症状を出来る限り抑えるために用いられます。

ADHD治療薬

ADHDは、脳の神経伝達物質の働きが弱いことや、前頭葉の働きがうまくいかないことで起こることは前述したとおりです。
そのため、ADHD治療薬も神経伝達をスムーズにしたり、前頭葉の働きを改善させるために使用します。
また、ADHDと診断されたからといって一生継続的に飲み続けないといけないわけではありません。他のお薬と同様に症状の改善度合いを観察していきながら、必要に応じてお薬を減らしていくことも可能です。

抗不安・抗うつ薬

ADHDの二次的症状で不安やうつ症状がある場合、不安を和らげたり気分の落ち込みを軽減させる目的で使用することがあります。

抗てんかん薬

てんかんが見られる場合に治療薬として選択されることがあります。ADHDとの併発例では生活の質や睡眠障害が大きく改善されたとの報告もあります。

社会心理的治療

薬物療法と同様に重要とされているのが、この社会心理的治療です。
本人の適応的な行動を促すスキルトレーニングや、親(養育者)に対するペアレントトレーニングなどが存在します。
また、ADHDは周りの環境によって症状が強く出たりすることがあるため、環境調整を行うこともアプローチとして有用とされています。

ペアレントトレーニング

ADHDをはじめとした発達障害を持つ子どもの養育者に向けて開発されたプログラムです。
このプログラムのはじまりは、養育者を「子どもの最善の治療者」と考え、療育を家庭でも行えるようにと構築された治療法となります。

ADHDのお子さんと一緒に生活していくと、関わりがどうしても「気が付けば叱ってばかりいる」「いろいろ症状を見ていると不安」「しょっちゅう癇癪を起こすので疲れる」といったネガティブなものになりがちです。しかしネガティブな関わり方はADHDの子どもを追い込んでしまうことが多く、二次的な障害・つまり強い落ち込みが見られたり、反社会的な言動に走りやすくなるといった弊害がありますし、養育者自身のストレスも蓄積されていきます。
その結果、症状による問題が繰り返され、養育者も注意を繰り返す・・・という悪循環となりやすいのです。

ペアレントトレーニングでは、養育者の関わりをポジティブに変えることで、

  • ADHD患者本人の行動が出来る限り適切なものに変わるよう促す
  • 養育者のストレスの軽減を図る
  • ネガティブな反応による悪循環を改善する

ことが目標になることが多いでしょう。

不適切な行動が起こる前に、いつも身近にいる養育者が適切な行動が行えるように促すようなプログラムも多数存在しており、家庭で過ごす時間も療育の機会として有効活用できるようになっています。

ソーシャルスキルトレーニング

ADHDだけでなく、社会生活を行っていくうえで大事な能力がソーシャルスキルです。
頭では理解していても、実際にその場になると慌ててしまい正確な手順が踏めなくなるとか、ミスが多くなることもあるでしょう。
例えば電話をしていてメモが大事だと思っていても、電話口の声を聞いているのに集中しなくてはならずメモを取るのが疎かになってしまう、といったことは実際にあるはずです。
症状そのものを改善するのは容易ではありません。
症状そのものを変えるのではなく、「苦手なうえで、実際どういう対処法を取ればいいのか」という部分が大事です。

電話をしながらでもメモをするにはどういう手順をとったらいいか?電話をとるときにどうやって内容の要点を押さえるか?という点はトレーニングをすれば徐々に慣れることが出来るでしょう。「衝動的に怒ってしまう」という部分があったとして、その症状が変えられなくても、怒りの感情をどうコントロールするかはトレーニングを重ねることができます。

実際に困る場面での対応を、ロールプレイを通して体験することで、より実践的な・実用的な形での習得が可能となり、自信をつける機会にもなります。

トレーニング時は一対一であったり、小集団で行うなど想定する場面によっても変わります。

環境調整

周囲の環境を変えることで症状が出現しても適切な行動ができるようにする、というのが環境調整の目的です。
例を挙げると、

  • 親や教師からの指示は具体的にする(抽象的な表現を使わない)
  • 必要物品のリストを作り、親子で確認する
  • 「掃除」や「給食当番」の分かりやすい段取り表を教室に貼っておく
  • メモ帳・携帯電話のスケジュール・アラームなどを活用する
  • 電話をとったら、お互いの確認のために復唱する時間を作る

などがあります。
ADHDの場合、自分が出来ると思っていることと実際に出来る能力に差がある場合があります。
まずは、自分がどのような行動や思考が苦手なのかを把握することで、どういった調整が必要なのかが具体的に見えてくるでしょう。
専門家と話し合い、協力しながら対策方法を作り上げていくことも重要になってきます。
そして、周りの人に周知することも必要不可欠です。学校であれば教職員、職場であれば上司や同僚などに理解をしてもらいながら環境調整を行っていく必要があります。

多くの場合は発達支援や就労支援に関わる関係職と情報共有を行いながら連携していくことになるでしょう。

まとめ

待合

ADHDの症状は、性格からくるものでも、本人や家族の努力不足からくるものでもありません。
症状は脳機能の低下から来るものであり、社会生活を送っていくうえで徐々に症状が強くなったり弱くなったり、あるいは心の症状に波及していったりとさまざまです。
また、本人の生きづらさを誘発すること意外にも、ADHDの症状によって親が「育てづらさ」を感じることもあり、虐待に繋がる可能性もあり、親自身が生きづらさを感じることもあります。

なかなか医療機関に相談しづらいとか、相談するにも「不注意が多い」とか「物事を覚えられない」などを相談したところでどうなるのか、と思われている場合もあるかもしれません。
しかし、それで生きづらさを招いていたり、どうにも社会生活がうまくいかないと思い悩んでいるとしたら、それをそのまま伝えるだけでも大丈夫です。
「いま、辛い」ということを医療機関に相談してもらえれば、一緒に詳しい原因を掘り下げていくことが出来ますし、それが第一歩になります。

監修

新橋メンタルクリニック
院長 狩野 彰宏

「メンタルケアで全ての人が今よりも生きやすく輝ける未来を目指して」

明るい未来を紡ぐために、当院は一心一意に皆様の心に寄り添ってまいります。
心のお悩みや困りごとがありましたら、どうぞ何なりとお問い合わせをくださいませ。

院長

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